恐山菩提寺前で出逢った姿勢が凄まじくいいSさんは、偵察から戻り『あっちの方にいいテント場を見つけたので今晩はそっちで寝てきますね。では。』と言い残し、姿をくらました。
自分はNちゃんのお母さんが作ってくれたおにぎりと差し入れの南部煎餅、来る途中で買ったべこもち(なかなか美味しかった)を湖のほとりで食べ、テントに潜る。色々な思いが頭をよぎり、ビデオメッセージを残す。これが最後のメッセージになるかもしれないのだ。テントを自分で切り裂く用に枕元にナイフを用意し、逃げ道も考え、テントの回りに砂利も敷いた。気が散りまくりながら読書をし、20時過ぎた頃に『自分は、ミッション・インポッシブルのイーサン・ハントかよ?』『眠れるかなぁ』『お母さん、ごめんなさい。』などと思いをはせながら眠りにつく。そして、またもや朝の3時まで爆睡。Sさんが戻ってくる前にテントをたたんで出発しようと計画していたが、雨足が強い。起きていればちょっとは安心だと、1時間ほど待機した。4時過ぎに寝袋から出てテントから外を眺めていると、Sさんが目の前を『おはようございます!まだお寺が閉まっているので、あちらの方を偵察してきます!』と言い通り過ぎていった。朝から爽やかすぎるほどだ。そして、『救われた。』本当にそう思った。三途の川のこっちで、生き延びたと。と同時に、Sさん疑ってごめんなさいとも。本当に変わった人だったが、危ない人ではなかった。荷物をまとめ、恐山菩提寺を後にし、三途の川を再び渡る。純粋に嬉しかった。これで、生きて帰れると思った。
山を越えて、下り坂に差し掛かったところで、なんとSさん発見。
ワタクシ『今から戻れば、もう開山してますよ。』
Sさん『あっ、僕、千葉に帰ります。』
ワタクシ『ここまで来てお参りはっ?!!!!また歩いて帰るんですか?』
Sさん『はいっ!』
最後まで姿勢は正しかった。また2ヶ月かけて帰るのだろう。歩くスピードやテント場の見つけ方、天候、食べ物のことなどを話した時に、歩いてここまで来たことは作り話ではないことは確信していた。しかし、目的地である菩提寺に入らずに、門の前で半日過ごし、また歩いて帰る。Sさんは門の外で満足したのだろうか?それとも、死者と会えると言われている恐山で双子の兄弟に会えたのだろうか?
何とも不思議で風変わりなSさん。無事に千葉まで戻れていることを願いつつ。
そして、ワタクシ無事です。
最期の晩餐になるのか?南部せんべいとべこ餅が、何とも東北っぽい。
雨足が弱まるのを、今か今かと待つ。
6時前に出発。
三途の川を渡り、こちら側の世界に戻る。
救われたと実感し、安堵する。
ただいま。
Google Mapにも、ちゃんと載ってる三途の川!
Sさん、あなたは一体何者だったのよ?